寒波ネルラ

 天気予報に雪マークが見えた。そこはかとない焦りを感じてしまい、寒いけど少しだけ散歩しようと外に出た。どうせ降ったら降ったでするのだが。アパートを出てすぐ、手ぶらの男性が少し前を歩いていた。彼も雪マークに急かされたのだろうか。勝手に同志と思う。すると、まだ音楽の流れていないイヤホン越しに何かが聴こえてくる。スンスン。グスグス。前を歩く男性が泣いていた。鼻水を啜っているのではない、電柱で立ち止まり、確かに腕で涙を拭っていた。12月の寒い空気の中さ、こんな夜道で1人で泣かないでよ。1か月前の僕じゃないんだから。

 不安になるのは夜だし、不安を和らげてくれるのも夜。明けてほしいような、明けてほしくないような。

 何があったか知らなくていいけど、とにかく帰ったらあったかいものでも飲んでゆっくり寝てくれと、背後から男性に念じてそそくさと追い越した。直後の角を曲がり、後ろを振り返ると男性は消えていた。

 いや、あれは、1か月前の僕だったんじゃ。それを追い越したということは。

 いいや、あったかいものを飲んで寝よう。これを習慣づけるようになったのは1か月ぐらい前からだったような。