親知らず知らず

姉ちゃんは母の悩みを知っている。僕はまだ知らない。

姉ちゃんはおばあちゃんとご飯に行ったりする。僕はまだ無い。

姉ちゃんは親知らずができたことがある。僕はまだ無い。

 

 僕はこの先どこまで行っても弟で、姉が少し先に大人になって過ごした数年間は追いつくことができない。愛情の差ではなく、純粋に時間の差だ。姉は自分が小学生の頃には既に実家を出ていたし、今も一緒に実家に帰ることも中々ないのでどういう距離感で接しているのか全然分からない。

 姉はよく母と晩酌していたが、僕は照れ臭くて二十歳になってからもあまり実家では飲まなかった。そんな感じで過ごしていたら母があまり飲めなくなってしまい、せっかく家族と飲んでみたいなと思ってきた頃には相手がいなくなってしまった。父はそもそも少ししか飲まないし。もしかしたらお酒を一緒に飲んでいないと聞けない話があったかもしれない。僕だけ知らない話があるのかもしれない。

 

  高校生の時、親戚の結婚式に出た。披露宴の余興?で父親がギター、母が歌で中島みゆきの「糸」を披露した。ゲボが出そうだった。良いシーンのはずなのに、普段見る事のない姿がなんだか気持ち悪くなって見てられなかった。別の生物を見ているようだった。親戚のおばさんから「良かったねぇ」と言われたが、愛想笑いで済ませた。あくまで両親役をしている1人の人間である、1組の夫婦であるという瞬間に初めて出会い、脳が受け入れられなかったのだろう。今でも多分愛想笑いをすると思うが。

 一緒にやす子の「はい〜」をやるぐらいには家族と仲良いし、人間としても好きな方だ。でも、深いところは知らない。昔のことも、今のことも。どの家庭もそんなものなのだろうか。

 

 学生でもなくなり、適当に自立して生きれるようになった今の自分が、家族とどう関わっていけば良いのか分からない。今まで通りのままでいいのだろうか。周りの人や見たものの話はして、自分の話はあまりしない。これはきっと親譲りだ。

 

本当はお年寄りになってしまう前に

記憶が薄れる前に

いなくならない前に

もっと色んな話を聞いておきたい

もっと色んな話を伝えたおきたい

 

お盆に帰るときは何の話をしようか。いざ聞こうと思うと中々...なんて言ってらんないな。

 

僕はまだ親知らずを知らないのだから。