異世界イヤホン

 ワイヤレスイヤホンを失くした。

それは一昨日の晩、ランニングを終えて家のベランダで涼んでいる時。状況としては僕はベランダに敷いている人工芝の上に座り、イヤホンをすぐ足元に置き、ペットボトルのスポドリをスツールの上に置いていた。いつも通りの配置。「今日は長く走れたぞ〜」と足を伸ばしたらスツールにの足にあたりバランスが崩れ、ペットボトルが落ちた。ペットボトルは半回転して真下にいるイヤホン(L)に直撃。ピタゴラスイッチ形式でイヤホンはの間をすり抜け裏庭へ落下した。砂利に着地する「コツッ」という音が響き渡る。あまりに一瞬の出来事で呆気に取られる。「うわー!やばい!!!」となる前に、イヤホンをベランダから落とすという状況が面白くて笑ってしまった。よく失くす物の定番だけどこんなパターンもあるのか。

 

片耳のイヤホン川に投げ入れて横揺れの水 逆立ちの蟹

 

以前つくった短歌のことを思い出す。でも今回は水辺じゃないから下にいるのは蟻か、何聞くかな。ゆら帝とか好きかな。

なんて考えている場合ではなく取りに行かなくてはいけない。でも裏庭部分は普段は入れないようになっているので早くても翌日になってから管理人に連絡するしかない。翌朝管理人にメッセージを送っておき、僕の仕事中に探してくれることになった。風も吹いてなかったし昨日の今日の昨日の昨日の明日の明日なんで見つかるだろうとたかを括っていた。が、昼過ぎごろ管理人から届いた連絡は「それらしきものは見つかりませんでした」。仕事が終わって家に帰るとアパートの入り口に「イヤホンを探しています」の貼り紙までされていた。いや恥ずかしい恥ずかしい、誰がベランダからイヤホン落とすんだよ。やめてよ。

で、昨日。休みだったので朝から管理人の元に殴り込み裏庭開放運動実施。戦場には多くの血が流れたがなんとか裏庭の入り口を開けてもらうことに成功。管理人と一緒に探し始める。イヤホンの色がベージュっぽいから砂利と同化するとはいえ、流石に見つかるだろうとたかくくりPart.2。30分以上かけて自分の部屋と同じラインをぐるぐる探したが見つからない。Bluetoothも繋がらない。音を出してみれば聞こえるかもしれないと思いApple Musicを開いてみた。こういう時に何流せばいいんだ。管理人に聴こえた場合に「あぁこういうの聴くんだ」って一瞬でも思われたくない。わからない、わからないが、歌詞があるとなんか嫌だなと思ったのでSAKEROCKの「マジックアワー」にした。地面とにらめっこする僕の後ろでハマケンや源さんが見守っている。マジックアワーの気の抜けた呑気な雰囲気のおかげでリラックスして探せた。もう見つからなくても別にいっかぁという気持ちにすらなってきた。午前中は諦め、一旦部屋に戻り昼ごはんのオムそばを食べる。もう一度ベランダを探したがあるはずもなく。仕切り直して午後1人で再チャレンジしたものの、やはりどこにも無い。こうなるとだ、ベランダから裏庭までの間にパラレルワールドへつながるゲートがありイヤホンはそこにたまたま入ってしまったということになる。どこかの世界線のアパートでSAKEROCKが流れていたのだ。もしそこが音楽がない世界だったら、僕のイヤホンを見つけた人あるいは何かが音楽を知らない者だったら、これはすごいことなんじゃないか。なんだかワクワクしてきた。元気にしてるか左イヤホン。お前は偉大なるイヤホンだ。そっちの世界に音楽という素晴らしいものを広めるんだ。ベース強めで楽しんでくれ。

そんなこんなで今月買ったばかりの自分史上最高額のイヤホンと前向きなお別れをした。

 

そういえばイヤホンはなかったけど、ピンクの折り鶴が落ちてた。

あなたはどの世界からきたの?